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東京地方裁判所八王子支部 昭和47年(ワ)70号 判決 1973年10月15日

原告

サルバドール・テイー・デナホリ

ほか五名

被告

山田百太郎

ほか一名

主文

1  被告らは、連帯して、原告サルバドール・テイー・デナホリに対し金二、〇〇四、九二二円、同バーバラ・イー・デナホリに対し金二、〇〇四、九二二円、同ロイド・ダブリユー・ステイーブンスに対し金一、六七〇、二七三円、同マギー・イー・アローンに対し金三、一四五、〇四八円および右各金員につき被告山田百太郎においては昭和四七年二月一〇日から、被告大田黒孝幸においては同年四月一八日から、いずれも支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告らは、連帯して、原告ダブリユー・ロイ・アローン・ジユニアに対し金六〇〇、〇〇〇円、同アイ・マーギーデイ・アローン・ジユニアに対し金六〇〇、〇〇〇円および右各金員につき被告山田百太郎においては昭和四七年二月九日から、被告大田黒孝幸においては同年四月一七日から、いずれも支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

3  原告らのその余の請求を棄却する。

4  訴訟費用はこれを二〇分し、その各四を原告ダブリユー・ロイ・アローン・ジユニア、同アイ・マーギー・デイ・アローン・ジユニア、被告山田百太郎および同大田黒孝幸の負担とし、その余の各一を原告サルバドール・テイー・デナホリ、同バーバラ・イー・デナホリ、同ロイド・ダブリユー・ステイーブンスおよび同マギー・イー・アローンの負担とする。

5  この判決は、主文第1、2項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告ら

(第七〇号事件)

1 被告らは、連帯して、原告サルバドール・テイー・デナホリに対し金二、五〇四、九二二円、同バーバラ・イー・デナホリに対し金二、五〇四、九二二円、同ロイド・ダブリユー・ステイーブンスに対し金二、六七〇、二七三円、同マギー・イー・アローンに対し金四、三四五、〇四八円および右各金員につき、被告山田百太郎においては昭和四七年二月一〇日から、被告大田黒孝幸においては同年四月一八日から、いずれも支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は被告らの負担とする。

3 仮執行の宣言

(第七五号事件)

1 被告らは、各自、原告ダブリユー・ロイ・アローンに対し金四、一五二、〇二八円、同アイ・マーギー・デイ・アローン・ジユニアに対し金三、四六〇、〇二四円および右各金員につき、被告山田百太郎においては昭和四七年二月九日から、同大田黒孝幸においては同年四月一七日から、いずれも支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は被告らの負担とする。

3 仮執行の宣言

二  被告ら

(第七〇号事件および第七五号事件)

1 原告らの各請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  被告大田黒孝幸は、昭和四四年二月一日午前二時一〇分ころ、普通乗用自動車にロバート・エル・デナホリ(一九四七年四月一〇日生)、マイケル・エス・ステイーブンス(一九四九年八月二四日生)、マイケル・イー・アローン(一九四七年六月一九日生)および大前孝明の四名を乗せ、東京都西多摩郡羽村町川崎一三九六番先の道路を青梅市方面から福生市方面に向けて運転進行中、前記自動車を道路端の電柱に衝突させ、同乗していた右四名を死亡させた。

2  本件事故は、被告大田黒孝幸が前記自動車を運転するに当り、制限速度(毎時四〇キロ)を守り、かつ、前方左右を注視して進行すべき業務上の注意があるのに、これを怠り、時速一〇〇キロの高速度で進行し、しかも後を振り向きながら漫然運転した過失により発生したものであり、被告山田百太郎は前記自動車を所有し、これを大前孝明に運転させていたものであり、被告大田黒孝幸は右大前孝明の承諾を得て前記自動車を運転していたものである。したがつて、被告大田黒孝幸は直接の不法行為として民法第七〇九条により、また、被告山田百太郎は本件自動車を自己のため運行の用に供していたものであるから自動車損害賠償保障法(以下単に「自賠法」という)第三条により、それぞれ本件事故による損害を賠償すべき責任がある。

3  本件事故による逸失利益

ロバート・エル・デナホリ、マイケル・エス・ステイーブンスおよびマイケル・イー・アローンは、本件事故当時、東京都福生市米軍横田基地に勤務していたアメリカ軍人であり、満五五年に達するまで、事故発生日の前年度にアメリカ空軍から受領した基本給相当額の収入を得られることは明らかであるので、その二分の一を生活費として控除したうえ、同人らの逸失利益を算出すると別表(一)記載のとおりとなる。なお、同人らは、好意同乗者であり、しかも被告大田黒孝幸が飲酒運転をしていたことを承知していたので、被害者側の過失を考慮し、原告らは、被告らに対し、逸失利益としてその二分の一を請求するものである。

4  相続関係

(一) 原告サルバドール・テイー・デナホリ、同バーバラ・イー・デナホリは、被害者ロバート・エル・デナホリの両親であるところ、右被害者の本国法であるアメリカ合衆国カルフオルニア州法によれば、両親が各二分の一の相続権を有するので、右原告両名はロバート・エル・デナホリの逸失利益の二分の一を相続により取得した。

(二) 原告ロイド・ダブリユー・ステイーブンスは、被害者マイケル・エス・ステイーブンスの父親であるところ、右被害者の本国法であるアメリカ合衆国イリノイ州法によれば、独身である被害者の相続権者は両親および兄弟姉妹となつているが、被害者の母親はすでに死亡しており、父親を除く他の相続権者はいずれも相続権を放棄しているので、同原告は唯一の相続人であり、右被害者の逸失利益全部を相続により取得した。

(三) 原告マギー・イー・アローンは、被害者マイケル・イー・アローンの妻であるところ、右被害者の本国法であるアメリカ合衆国ジヨージア州法によれば、同原告が右被害者の唯一の相続権者であるので、同原告は右被害者の逸失利益全部を相続により取得した。

(四) 原告ダブリユー・ロイ・アローン・ジユニア、同アイ・マギー・デイ・アローン・ジユニアは被害者マイケル・イー・アローンの両親であり、同人の逸失利益各二分の一を相続により取得した。なお、右被害者には妻マギー・イー・アローンがいたが、同人は他に嫁しているので相続権を有しない。

5  慰謝料

原告らは、本件事故によりそれぞれ精神的苦痛を受けたので、被告らに対し、別表(二)記載の各慰謝料を請求する。

6  損害の填補

原告サルバドール・デイ・デナホリ、同バーバラ・イー・デナホリ、同ロイド・ダブリユー・ステイーブンス、同マギー・イー・アローンらは別表(二)記載の自賠責保険金を受領しているので、これを原告らの損害金に充当した。

7  弁護士費用

原告ダブリユー・ロイ・アローン・ジユニアは、訴訟代理人森尻光昭に本件訴訟を委任し、その報酬として金六九二、〇〇四円を支払うことを約した。

8  よつて、原告らは、被告らに対し、連帯して請求の趣旨記載の各金員およびこれに対する本訴状送達の翌日である請求の趣旨記載の各月からそれぞれ支払いずみまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

(被告山田百太郎)

1 請求原因第1項の事実は知らない。

2 同第2項の事実中、被告山田百太郎が本件自動車の所有者であることは認めるが、その余は争う。被告山田百太郎は、その従業員である大前孝明が自動車の運転免許を有していなかつたので、自動車の運転をさせたことはないし、本件事故当時もこれを承諾したことがないのに同人は本件自動車の鍵を盗み出してこれを運転し、本件事故当時は被告大田黒孝幸が本件自動車を運転していたものである。そして、被告山田百太郎と被告大田黒孝幸との間には雇用関係がなく、本件事故は飲酒していた被害者らを好意で横田基地まで送つて行く途中発生したものであつて、被告山田百太郎の業務とは何ら関係がない。要するに、本件事故は、被告大田黒孝幸の無断運転により惹起されたものであるから、被告山田百太郎としては運行供用者としての責任はない。仮に、被告山田百太郎が本件自動車の運行供用者であるとしても、好意同乗者である被害者らは自賠法第三条の他人に該当しない。

3 同第3、4項の事実は知らない。

4 同第5項の主張を争う。

5 同第6項の事実中、原告らが別表(二)記載の自賠責保険金を受領したことを認める。

6 同第7項の事実は知らない。

(被告大田黒孝幸)

1 請求原因第1項の事実を認める。

2 同第2項の主張を争う。

3 同第3、4項の事実は知らない。

4 同第5項の主張を争う。

5 同第6項の事実中、原告らが自賠責保険金を受領したことを認める。

6 同第7項の事実は知らない。

第三証拠関係〔略〕

理由

一  請求原因第一項の事実につき、原告らと被告大田黒孝幸との間に争いがなく、被告山田百太郎との関係では、〔証拠略〕によりこれを認めることができる。

二  そこで、被告らの責任について検討する。

1  〔証拠略〕によると、本件事故は、被告大田黒孝幸が飲酒のうえ、時速約一〇〇キロで進行中、本件事故現場付近を運行するのが初めてで地理に暗かつたことから、後部座席に乗車していた被害者らに進行方向を確認すべく後部を振り向き、前方を注視しないまま運転した過失により発生したものであることが認められるので、被告大田黒孝幸は本件事故によつて被つた損害を賠償すべき責任がある。

2  本件自動車が被告山田百太郎の所有であることは当事者間に争いがなく、〔証拠略〕を総合すると、次の事実が認められ、他にこれを覆えすに足りる証拠はない。

被告大田黒孝幸は、昭和四四年一月三一日午後九時ごろ被告山田百太郎の経営する新聞販売店の従業員大前孝明から飲みに行こうと誘われて、立川市に飲みに出かけ、同人と数個所で飲酒した後、翌二月一日午前零時ごろ、右大前孝明が被告大田黒孝幸を車で送つて行くといい出し、本件自動車を持ち出してきた。そして、たまたま帰宅しようとしていた被害者らに出会い、当時同人らが勤務していた横田基地まで送り届けることになり、大前孝明が運転して出発したものの、横田基地周辺の地埋に暗く道を誤つたことから、被告大田黒孝幸と運転を交替し、同被告の運転進行中、本件事故を惹起したものであるが、被告山田百太郎は大前孝明が運転免許を有していなかつたので、同人に自動車を運転させたことはなく、本件事故当時もこれを承諾したことはない。しかし、大前孝明は、運転免許こそ取得していないが、運転技術を身につけていたので、被告山田百太郎の居間に保管してあつた本件自動車の鍵を無断で取り出し、同人宅から約五〇メートル離れた駐車場に赴き、右鍵を用い同所においてあつた本件自動車を運転して持ち出した。なお、被告山田百太郎は、原則として本件自動車を新聞の販売業務に使用することはないが、時折顧客から新聞が配達されていない旨の連絡を受けたときは、免許を有している他の従業員に本件自動車を使用させて新聞を配達させたことがある。

以上のとおり、本件自動車は被告山田百太郎の所有であつて、新聞販売業務に全く利用されたことがないわけではなく、本件自動車を持ち出した大前孝明は被告山田百太郎の従業員であり、無断で持ち出したとはいえ、被告大田黒孝幸を送り届ける用事がすめば短時間内に返還されることが当然予定されていたことが推認されるし、被告山田百太郎と被田大田黒孝幸との間に直接の雇用関係こそ存しないけれども、同被告は大前孝明の承諾を得て本件自動車を運転していたものであるから、右のような立場にある被告大田黒孝幸が本件自動車を被告山田百太郎に無断で運転したとしても、いまだ本件自動車の運転に対する被告山田百太郎の一般的支配が奪われたものとは認められない。

また、被告山田百太郎は、好意同乗者は自賠法第三条本文の「他人」に該当しないと主張するが、自賠法第三条本文にいう「他人」とは、自己のために自動車を運行の用に供する者および当該自動車の運転者を除くそれ以外の者をいうのであつて、好意同乗者には自賠法第三条に適用しない旨の明文の規定がない以上、これを除外する理由がなく好意同乗者まさに同乗の「他人」に含まれるというべきであるから、この点に関する被告山田百太郎の主張は採用できない。

そうすると、被告山田百太郎は、本件自動車を自己のため運行の用に供していたものということができるので、その運行によつて惹起された本件事故による損害を賠償すべき責任がある。

三  次に、過失相殺について検討する。

〔証拠略〕によると、被告大田黒孝幸と大前孝明が飲酒して帰ろうとした際、被害者らに出会い、同人らに対し、車で送つてやると誘つたところ、同人らは被告大田黒孝幸や大前孝明が酒に酔つていることを知りながら、同乗を拒否することなく誘いに応じて乗車し、途中被告大田黒孝幸が運転を交替して時速約一〇〇キロの高速度で進行中も減速するよう注意をしないで雑談していたことが認められる。本件事故の原因は、被告大田黒孝幸が飲酒のうえ、時速約一〇〇キロの高速で進行中、後方を振り向くなど前方を十分注視しないで運転したことによるものである。被害者らは、被告大田黒孝幸で大前孝明が飲酒運転をすることを乗車前から承知していたのであるから、誘われた際、これを拒否すべきであつたし、また、一旦同乗した後も被告大田黒孝幸の危険きわまりない運転を発見した場合、直ちに同被告の運転をやめさせるべきであつたのに、何らそのような行為に出ることなく同乗を続けたため、本件事故に遭遇したものであつて、この点被害者らにも過失があつたといわなければならず、その割合は五割と認めるのが相当である。

四  逸失利益について、

1  〔証拠略〕によると、被害者らは、本件事故当時、横田基地に勤務していたアメリカ合衆国の軍人であり、その年令および昭和四三年度中の収入は別表(一)記載の当該各欄記載のとおりであつて、少なくとも満五五年に達するまで軍人として勤務することができるものと認められる。したがつて、被害者らは、本件事故に遭遇しなかつたならば軍人として昭和四三年度中に得た以上の収入をあげ得るであろうことは容易に推認されるので、その二分の一を生活費として控除し、さらに中間利息を控除して逸失利益を算出すると、別表(一)の逸失利益欄記載のとおりとなる。

2  〔証拠略〕によると、次の事実が認められる。

(一)  原告サルバドール・デイー・デナホリ、同バーバラ・イー・デナホリは、ロバート・エル・デナホリの両親であり、かつ、唯一の相続人である。

(二)  原告ロイド・ダブリユー・ステイーブンスは、マイケル・エス・ステイーブンスの父親である。マイケル・ステイブンスは、本件事故当時、独身で子供がなく、母親はすでに死亡しており、他に二人の兄弟がいたが、両人らは相続権を放棄しているので、原告ロイド・ダブリユー・ステイーブンスのみが相続人である。

(三)  マギー・イー・アローンは、マイケル・イー・アローンの妻であるが、同人との間には子供がない。ジヨージア州法では夫が子供またはその子孫を残さない限り妻が唯一の相続人と定められている。したがつて、マイケル・イー・アローンの両親である原告ダブリユー・ロイ・アローン・ジユニア、同アイ・マギー・デイー・アローン・ジユニアは、その相続人にはなり得ない。

3  そこで、被害者らの前記逸失利益に前記の過失割合を斟酌し、さらに相続分に応じて、原告ダブリユー・ロイ・アローン・ジユニア、同アイ・マギー・デイー・アローン・ジユニアを除くその余の原告らが相続した逸失利益を計算すると、別表(三)の逸失利益欄記載のとおりとなる。

五  慰謝料について

本件は、死亡事故であつて、結果の重大なことはいうまでもないが、被害者側にも同乗を勧められたからといつて安易に同乗し、しかも前記のような過失があり、その他諸般の事情を斟酌すると、原告らの精神的苦痛を慰謝するには別表(三)の慰謝料欄記載の各金員をもつて相当とする。

六  弁護士費用について

原告ダブリユー・ロイ・アローン・ジユニアは弁護士費として金六九二、〇〇四円を請求しているが、本件全証拠によるも、同原告がその代理人たる森尻光昭に右金員の支払いを約したことを認めることができないので、右請求は理由がない。

七  以上のとおり、原告らは、被告らに対し、別表(三)記載の損害賠償請求権を有するところ、原告ダブリユー・ロイ・アローン・ジユニア、同アイ・マギー・アローン・ジユニアを除くその余の原告らが別表(三)の保険金欄記載の自賠責保険金を受領していることは当事者間に争いがないので、これを右損害金に充当すると、原告らの各請求認容額は別表(三)の認容額欄記載のとおりとなる。

八  右の理由により、原告らの本訴請求は主文掲記の限度で正当であるからこれを認容し、この余は失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条第一項を適用して主文のとおり判決する

(裁判官 新田誠志)

別表(一)

<省略>

別表(二)

<省略>

別表(三)

<省略>

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